窓の外では、機嫌の悪い天気が続いている。
昨晩は編集の方と会い、本日は自宅で過ごすはずだった。
しかし仕事の都合でホテルに連泊をすることに。同じホテルに連泊しているが、部屋をシングルからツインに変更していた。
環境を変えて執筆をすることは好きなので、今日は一日集中して原稿を進めることができた。
朝からパソコンに向かいっぱなしだったが、一時間程前に執筆を切り上げシャワーを浴びた。
このあと、女性と会う用事がある。仮に彼女を愛美としよう。
彼女は大学の同期だった。
三年生の時だったと思う。僕と彼女はお互いにひどく傷つく出来事があった。
僕は作家を目指す道から目を背けたくなるような事態に見舞われ、愛美は大きな失恋をした。
この出来事がある随分前から、僕は愛美の住む学生マンションを訪れることがあった。
体の関係はなかったが、お酒を飲んだり、朝まで一緒に眠ることもあった。
僕に辛い出来事があった時期、愛美も失恋したことを本人から聞いていた。
普段からお互いの寂しさを補いあっていた僕らにとって、このタイミングで会うことは必然だったと思う。
先に愛美が失恋し、僕が傷ついたある日、僕は連絡も無しで愛美の部屋を訪れた。
彼女は待っていたかのように僕を迎え入れてくれた。
愛美の失恋話から、僕たちは初めて性の話をした。
僕は彼女に自分の性癖について話したが、彼女もまた自分の性癖について話してくれた。
彼女は縛られて放置をされるのがたまらなく好きだった。
僕は愛美が自分のジャンルかと思ったが、愛美の願望にはそれ以上がなかった。 目隠しをされ、動けない状態で監視をされるのが愛美の願望のすべてだった。
愛美は、その癖が原因で社会人の彼氏にフラれたようだった。
そのカミングアウト以来、僕と愛美はたまに会っては愛美の願望を満たすようになった。
縛って放置し、僕は愛美を監視した。かわりに、愛美は恋人に性癖を話すことはなくなった。
しかし現在に至るまで、一度もそれ以上の行為に及ぶことはなかった。
今日、半年ぶりに愛美に会う。すっかりビジネスで成功した彼女を、きっと僕はまた拘束するだろう。
誰にも話せない心の重りを持って、愛美はまた僕を訪れる。
僕はそれを否定しないし、軽蔑することもない。 人間なんて、みんなどこか歪んでいる。